1.はじめに
みなさんは2024年2月に開催された卓球世界選手権(団体)において、6連覇を目指す女子中国チームが、グループリーグ(予選)で敗北寸前まで追い込まれたことをご存じですか?
その対戦相手は、チームランキング2位の日本ではなく、その他の上位チームでもなく、なんとチームランキング21位のインドチームでした。
注目されたのは、インドチームに出場した3名全員が「異質型」と呼ばれる選手であった点です。
卓球競技の経験者にとっては、「異質型選手」というワードを聞けば、すぐにイメージできるかもしれませんが、そうでない方はイマイチ理解が難しいと思います。
というわけで、現在は少数派と言える「異質選手」とは?なぜ少数派なのか?などについて出来るだけわかりやすくお伝えしたいと思います。
2.「異質型選手」とは?
まず「異質型」というワードを理解するためには、卓球のラケットに貼るゴムの部分である「ラバー」の種類を理解する必要があります。
「ラバー」は、大きく分けて以下のとおり4種類あります。
卓球という競技は、ボールの回転が非常に重要なスポーツです。
よって、回転をかけやすい「裏ソフトラバー」を使う選手が圧倒的に多いのです。
そういったなか、ラケットの両面に異なる種類のラバーを貼ることを「異質ラバー」と呼んでいます。
そして、「異質ラバー」でプレーする選手を、「異質型選手」「異質型プレーヤー」「変化形異質プレーヤー」などと呼んでいるのです。
※俗称なので、正式な決まった名称はありません。
【豆知識】
トップシートの粒面が、外側(表面)にあるラバー ⇒ 表ソフトラバー、粒高ラバー
トップシートの粒面が、内側(裏面)にあるラバー ⇒ 裏ソフトラバー
※「アンチソフトラバー」は、外見は「裏ソフトラバー」と同じですが、極端に回転がかからないように加工してあるため別の呼び方をしています。
なお、上記の「表ソフトラバー」と「粒高ラバー」の違いについて気になる方は、別記事に詳しく記載していますので、是非ご覧ください。
3.異質型選手の割合
一般的に異質型選手は少数派と言われています。そこで、世界ランキング100位以内の異質型選手の割合を調べてみましたので参考程度にご覧ください。
特に、男子選手については異質型選手が少ないことが分かります。
【参考】異質型選手の世界ランク最高位の選手
・男子選手の最高位:ファルク(スウェーデン)21位
・女子選手の最高位:ハン・イン(ドイツ)11位
4.異質型はなぜ少数派?
では、なぜ異質型は少数派なのでしょうか?一般論と私見を交えながらご説明していきます。
異質型選手は、少なくとも片面に「裏ソフトラバー」以外のラバーを使用してプレーします。
(1)「裏ソフトラバー」以外のラバーの弱点
「表ソフトラバー」「粒高ラバー」「アンチソフトラバー」の共通する特徴は、ボールに回転かけるプレーは不得意という点です。
卓球競技においては、ボールにトップスピン(前進回転)をかけるいわゆる「ドライブ攻撃」は、もっとも重要な攻撃手段の一つです。
この「ドライブ攻撃」がしにくい点が、少数派となる要因の一つと言えます。
なお、「表ソフトラバー」でも、ドライブ攻撃は可能ですが、「裏ソフトラバー」と比較すると安定性や攻撃力の面ではどうしても劣ってしまいます。
(2)卓球を始める際の要因
卓球を初心者からスタートする場合、ほとんどの場合において「裏ソフトラバー」を使用します。理由は以下のようなことが挙げられます。
・回転をかけやすく基本技術の習得がしやすい
・ラインナップが豊富であり、最も市場に流通しており入手しやすい
・指導がしやすい
小学生~高校生が「表ソフトラバー」「粒高ラバー」「アンチソフトラバー」を使用し上達していくためには、用具の特徴を十分に理解している指導者が不可欠です。
現時点においては、そういった環境(指導者等の存在)はそれほど多くないはないことが、異質型プレーヤーが少ない理由の一つとして挙げられます。
5.「異質型」の有効性とは?
では、なぜ異質型は少数派ながら一定数の異質型プレーヤーが存在しているのでしょうか?
理由は、以下の点が挙げられます。
(1)少数派ゆえの利点
普段「裏ソフトラバー」で練習しているプレーヤーは、不慣れな「表ソフトラバー」「粒高ラバー」「アンチソフトラバー」と対戦した多くの場合、返球されてくるボールの球質が大きく異なるため、対応に苦しむことになります。
一例として、私が大会等で「異質型」に出会ったときにどのように感じているのかを一覧にしてみましたので、参考程度にご覧ください。
(2)相手の回転を利用できる
異質型のもう一つの特徴の一つは、「相手の回転を利用できる」といった点です。
現在の世界トップクラスでは、技術力の向上はもちろんのこと、パワー(筋力)がないと太刀打ちができないのが現状です。
ですが、異質型は強烈に回転のかかったボールを逆に利用したプレーをすることにより、パワー不足を補うことが可能になるのです。
一例としては、相手が打ったドライブ攻撃の回転量が多ければ多いほど、強烈な下回転がかかったボールを返球することが可能になります。
(3)なぜ、女子選手に「異質型」が比較的多いのか?
「異質型」は、男子選手に少ないと前述しました。
男子選手(特に世界トップレベル)の場合、パワー重視でボールスピードが速すぎるため、ボールの回転を利用する展開に持っていくのが困難になってきます。
その点、女子選手のプレーも男性化しているとは言われていますが、パワーよりもプレーのピッチの速さが重視されるので、比較的「異質型」が活躍するチャンスがあると言えます。
6.世界の異質型プレーヤー
(1)異質型選手一覧
2024年3月12日現在の世界ランキングより、異質型の選手をリストアップしてみましたので参考までにご覧ください。(基本的に、100位以内をピックアップ)
男子選手については、スウェーデンのファルク選手の21位が最高位となっています。
※ファルク選手は、2019年の世界選手権で準優勝した名選手です。
(2)伊藤美誠選手
現時点で、異質型選手(攻撃型)の中では、伊藤美誠選手が最も中国選手を打ち破り、世界の頂点を狙える選手だと言えます。
伊藤美誠選手は、パリオリンピックの選考レースでかなり調子を落としていましたが、最近は好調時のプレーに戻りつつあるキレのあるプレーをしているので非常に楽しみです。
(3)ニーシャ―リエン選手
ニーシャーリエン選手は、中国からルクセンブルクに帰化した選手です。ペンの異質型でフォア面が粒高ソフト、バック面が表ソフトという世界でも唯一無二のプレーヤーです。
彼女は、還暦を迎える年齢でありながら、中国選手を破るなど伝説的な選手です。
ニーシャーリエン選手については、別の記事で詳しくご紹介していますので、興味のある方は是非ご覧ください。
7.さいごに
今回は、「異質型」選手についてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?
2024年2月に開催された卓球世界選手権(団体)において、大活躍したインドチームは「異質型」のみでチーム構成してきました。明らかにインドチームの戦略です。
「異質型」は、対策をされてしまうと勝ちにくくなる戦型なので、常に戦術や打法など常にモデルチェンジをしていく必要があるのですが、やり方によっては今回のように、明らかな格上の選手やチームに勝利する可能性を秘めた魅力的な戦型と言えます。
パリオリンピックにおいても、「異質型」が活躍する可能がありますので非常に楽しみですね。
以上となります。みなさまの参考になれば幸いです。
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