1.はじめに
みなさんは倪夏蓮(ニィ・シアリエン)選手をご存じですか?私は、いつも勝負にはシビアに且つ楽しそうに戦う倪夏蓮選手のファンです。
現在、女子選手で世界ランク50位以内のペンホルダー選手は2名しかいません。彼女はその1人です。そして、年齢はなんと60歳でありながら、中国選手に勝利するなど活躍を続けている選手なのです。(2023年12月末現在)
そんな訳で、今回は倪夏蓮選手について個人的見解を交えながら独自の分析をしていきたいと思います。
2.倪夏蓮(ニィ・シアリエン)選手について
国籍:ルクセンブルグ
年齢:60歳
戦型:ペンホルダー攻守型(左利き)
世界ランク:42位
※1:中国からルクセンブルグへの帰化選手
※2:2024年1月16日現在
(参考)中国選手時代の主な成績
1983年:世界選手権 団体 金、混合ダブルス 金
1985年:世界選手権 女子ダブルス 銀
帰化後は、オリンピックにも何度出場し、2021年の東京オリンピックにも58歳という年齢で出場されています。
最近では、WTTスターコンテンダー(ドーハ)2024年1月8~13日において、中国期待の若手である蒯曼(クアイマン:世界ランク19位)に見事に勝利しています。
3.使用用具
倪夏蓮選手は、現在はヴィクタスの契約選手(アドバイザーリースタッフ)ということもありラケット、ラバーともにヴィクタス社の製品を使用しています。(2023年12月末現在)
ラケット:倪夏蓮 The Legend Series(中国式ペン:7枚合板)
ラバー(フォア面):CURL P1V(カールP1V)(粒高ラバー)
ラバー(バック面):VO>102(表ソフトラバー)
ヴィクタスは、江嘉良さん(中国)やミスターカットマン高島規郎さんのレジェンド選手監修のラケットを発売していますが、なんと倪夏蓮選手が監修したラケットも発売しています。
参照元:ヴィクタスHP
ラバーは、フォア面が粒高ラバー、バック面が表ソフトラバーを貼っており、かなり特殊な用具選択と言えます。
4.グリップ
倪夏蓮選手のグリップをご紹介します。
(1)ラケット表面(親指、人差し指)
親指をかなり深く差し込んでいるようです。個人的にはかなり意外でした。彼女は裏面打法を全く使わないので、いわゆる鷲づかみグリップをイメージしていたのですが、裏面打法を使う選手に見られる深めのグリップでした。
なお、バックハンドを使う際は、以下のように親指を立てて角度を作りやすくしています。ペンホルダーのプレーヤーがであれば、なじみのある手法と言えるでしょう。
(2)ラケット裏面(中指・薬指・小指)
ラケット裏面については、3本の指を曲げて人差し指だけでラケットを支えており、中指と小指はラケットに触れていない標準的なグリップと言えそうです。
5.サーブ
倪夏蓮選手のサーブの特徴を、2点挙げます。
(1)ファオハンドサーブのみ
左利きの彼女は、台の右コーナーからフォアハンドサーブを出し、得意の回り込み強打を狙います。少し詰まり気味のフォームから繰り出すフォアハンド強打が非常に強力です。
(2)表ソフトラバーのみ使用
サーブの時は、粒高ラバーを使うことはまずありません。さすがに、トップレベルでは、サーブで回転をかけるのが難しい粒高では即座に対応されるからでしょう。
6.レシーブ
レシーブは、粒高ラバーと表ソフトラバーを見事に使い分けています。
参考までに、「2024年WTTスターコンテンダー(ドーハ)1/8~1/13」3回戦における中国の王芸迪(中国:世界ランク2位)戦でのレシーブ時のラバーの使い分けの傾向について分析してみました。
※敗れはしましたが、見ごたえのある好ゲームでした。
(1)1セット目
レシーブ回数:12回
粒高ラバーによるレシーブ:11回(91.7%)
表ソフトラバーによるレシーブ:1回(8.3%)
1セット目は、デュースの末セットを落としてはいますが、粒高ラバーによるレシーブが効果的と判断したためか、ほぼ粒高ラバーによるレシーブを行っていました。
(2)2セット目
レシーブ回数:12回
粒高ラバーによるレシーブ:10回(83.3%)
表ソフトラバーによるレシーブ:2回(16.7%)
1セット目同様、粒高ラバーによるレシーブが効果的と判断したためか、粒高ラバーによるレシーブを多用し、強敵から見事1セットを奪っています。
(3)3セット目
レシーブ回数:9回
粒高ラバーによるレシーブ:6回(66.7%)
表ソフトラバーによるレシーブ:3回(33.3%)
3セットは、序盤で表ソフトラバーにより強打に近いレシーブを使いましたが、王芸迪選手(中国)が見事に対応し、一気に点差をつけられます。その後、粒高ラバーによるレシーブメインに切り替えましたが一気に押し切られセットを奪われています。
(4)4セット目
レシーブ回数:8回
粒高ラバーによるレシーブ:4回(50.0%)
表ソフトラバーによるレシーブ:4回(50.0%)
4セット目になると、王芸迪選手は球質にも徐々に慣れてためかミスが減ってきます。
倪夏蓮選手もレシーブを粒高ラバー・表ソフトラバーを織り交ぜて食い下がりますが、一気に突き放されて敗戦となりました。
敗れはしましたが、1セット目の10-8のセットポイントを奪えていれば、勝機は十分にあったとても見ごたえのある試合でした。
個人的には、倪夏蓮選手のレシーブは、粒高ラバーを多用するイメージだったのですが、「変化を生み出す粒高レシーブ」と「球速が速く相手を詰まらせる表ソフトによるレシーブ」を見事に使い分けていました。
7.3球目攻撃
ここでも、「2024年WTTスターコンテンダー(ドーハ)1/8~1/13」3回戦における中国の王芸迪(中国:世界ランク2位)戦での3球攻撃時(ブロック・ツッツキ含む)のラバーの使い分けの傾向について参考までに挙げてみます。
3球目攻撃(ブロック・ツッツキ含む)回数:37回
粒高ラバー:15回(40.5%)
表ソフトラバー:22回(59.5%)
この試合においては、表ソフトラバーの使用がやや多くみられましたが、相手の対応を見て臨機応変に使い分けています。
そして、甘い球を返球してしまうとナックル性の非常に取りにくいフォアハンド強打を撃たれます。対戦相手にとって常にプレッシャーを感じる状態を作り出しています。
8.その他の特徴
倪夏蓮選手が年齢を重ねても、活躍し続ける要因として挙げられる大きな特徴を、2点挙げたいと思います。
(1)希少なプレースタイル
なんといっても使用ラバーが、フォア面が粒高ラバー・バック面が表ソフトラバーと世界トップレベルでは唯一無二の用具です。
対戦相手は、普段の練習ではなかなか経験できない球質で、しかもラリー中でもラケットを反転するので、対戦相手には高い対応能力や集中力が要求されます。
(2)コース予測能力と反射能力の高さ
倪夏蓮選手は、ほとんど前陣でプレーしますが、フットワークは決して早くはありません。それでも、台から下がらずにプレーできるのはコース予測能力と反射能力が非常に高いためだと考えています。
同様な能力が高い選手としては、個人的には丹羽孝希選手が当てはまると思います。彼も、激しく動いているわけでもないのに、ボールが来るところに既にいるかのようなプレーを見せてくれます。
この能力こそが、年齢を重ねても活躍できる大きな要素の一つだと思います。
9.おわりに
いかがだったでしょうか?
倪夏蓮選手は、ペンホルダープレーヤーですが裏面打法を一切使いません。それでも、用具の特徴を最大限に活かし、今でも各国の強豪と渡り合っています。
また、プレー中の表情も豊かで非常に魅力的な選手だと思います。今後も、彼女の活躍を期待したいと思います。
以上となります。
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